胃潰瘍 総論
2014.12.18 メディビトの知恵概要
・胃液中の胃酸やペプシンの作用によって、粘膜筋板を超える深層に及ぶ粘膜欠損が生じた状態。
ポイント
・薬剤により潰瘍そのものの治癒は容易になった。
・近年は、ピロリ菌の除菌により根治可能な疾患となった。
診断
・問診により、消化性潰瘍の既往歴、ピロリ菌検査歴、NSAIDs使用状況などを確認する。
・ピロリ菌の有無
・内視鏡検査
良悪性の鑑別のため、潰瘍辺縁部からの生検を行う。
症状
・心窩部痛 胃潰瘍では食後、十二指腸潰瘍では空腹時にみられることが多い。
・悪心、嘔吐、胸やけ、食欲不振、背部痛
・合併症
出血:吐血、下血(タール便)、急激な出血の場合は貧血症状、めまいや動悸、失神
穿孔:腹部激痛、腹膜炎の腹膜刺激症状による筋性防御や反跳痛
検査
1、内視鏡検査
2、ピロリ菌検査
3、血液検査
治療、処方例
1.出血、穿孔などの合併症が起きている場合は緊急処置を考慮する。
2.潰瘍の治療
①攻撃因子抑制薬(酸分泌抑制剤)。
②防御因子増強薬(プロスタグランジン製剤、胃粘液増強薬、胃粘膜血流増強薬)
3.再発防止
①維持療法:再発防止のために薬物投与を継続する。
②ピロリ菌除菌療法:薬物投与によりピロリ菌を除菌する。
ピロリ菌を除菌しない場合一年以内の潰瘍再発率は50%程度。
4、その他
・NSAIDs服用中に発生した潰瘍では、NSAIDsを中止する。
禁忌
キーワード、ポイント
・胃液中の胃酸やペプシンの作用によって、粘膜筋板を超える深層に及ぶ粘膜欠損が生じた消化性潰瘍で、発生部位により胃潰瘍、十二指腸潰瘍と呼ばれる。
・消化性潰瘍患者の症状は無症状から激烈な症状まで多様である。持続痛であることが多い。
・良性疾患ではあるが、心窩部痛などの自覚症状に加え、出血や穿孔などの合併症が問題となる。
・薬剤により潰瘍そのものの治癒は容易になったが、一度治癒した潰瘍が再発を繰り返すことが問題となる。
・近年は、ピロリ菌の除菌により根治可能な疾患となった。
診療のすすめ方、考え方
・問診により、消化性潰瘍の既往歴、ピロリ菌検査歴、NSAIDs使用状況などを確認する。
診断
・ピロリ菌の有無
・内視鏡検査
白苔を伴う開放性潰瘍が認められる。
併せて、良悪性の鑑別のため、潰瘍辺縁部からの生検を行う。
アステラス製薬「なるほど病気ガイド」より引用
Ⅰ度:創が粘膜層のみ
Ⅱ度:粘膜下層まで
Ⅲ度:筋層まで
Ⅳ度:漿膜まで
症状
・心窩部痛 胃潰瘍では食後、十二指腸潰瘍では空腹時にみられることが多い。
・背部痛もみられる。
・悪心、嘔吐、胸やけ、食欲不振
・合併症
出血:吐血、下血(タール便)、急激な出血の場合は貧血症状、めまいや動悸、失神
穿孔:腹部激痛、腹膜炎の腹膜刺激症状による筋性防御や反跳痛
検査
1、内視鏡検査
2、ピロリ菌検査
・潰瘍があった場合はピロリ菌検査が必須・除菌判定には偽陽性、偽陰性の少ない尿素呼気試験が望ましい。
3、血液検査
・貧血、活動性の出血、慢性潰瘍による低栄養状態などの指標が利用される。
・潰瘍による急性出血ではMCVが下がらないし、出血1~2時間以内の超急性期ではHbも下がっていないことがあるので注意が必要。
・出血の急性期ではCrは上昇しないのに対し血液内の窒素を吸収するためBUNが高度に上昇する。
・Hb:男性13.5~16.9g/dl 女性11.4~15.0g/dl
・MCV:86.3~102.6
・BUN:7~20mg/dl
・Cr:0.5~1.1mg/dl
鑑別診断
・胆石疾患、急性膵炎、虫垂炎など心窩部痛を起こす疾患との鑑別が必要。
・胃癌
胃潰瘍の急性期で、炎症や浮腫による周辺腫脹が著明な場合や不整型潰瘍の場合、2型や3型の進行胃癌との鑑別が必要。
・悪性リンパ腫
胃癌と同様に急性期の胃潰瘍では、潰瘍形成型の悪性リンパ腫と鑑別が必要な場合があり、不整形潰瘍が多発する場合にも鑑別が必要。
・まれに、梅毒、結核、クローン病、アミロイドーシスなどで潰瘍が生じる場合がある。
治療、処方例
【治療】
1、合併症の防止
・出血、穿孔などの合併症が起きている場合は合併症を防止する。
・止血処置
①内視鏡的止血(クリップもしくは焼灼止血)
②PPI投与
内視鏡開始前の投与→活動性出血を減らす
内視鏡後の投与→再出血予防
・穿孔に対しては手術するが、場合により絶食、胃内持続吸引、抗生物質、酸分泌抑制薬などの保存的治療ですむ場合もある。
2、潰瘍の治療
・合併症がないときや合併症が落ち着いた後で、潰瘍の投薬治療を行う。
①攻撃因子抑制薬(酸分泌抑制剤)。
②防御因子増強薬(プロスタグランジン製剤、胃粘液増強薬、胃粘膜血流増強薬)
3、再発防止
①維持療法:再発防止のために薬物投与を続ける。
ただし、維持療養中に2~3割の再発、維持療法を中止すると再発が効率にみられること、
また維持療法をいつまで続ける必要があるか問題である。
②ピロリ菌除菌療法:薬物投与によりピロリ菌を除菌する。
ピロリ菌を除菌しない場合一年以内の潰瘍再発率は50%程度。
4、その他
・NSAIDs服用中に発生した潰瘍では、NSAIDsを中止する。
・NSAIDs中止が困難なときはプロスタグランジン(PG)製剤かPPIが有効だが、PG製剤は下痢や腹痛を起こしやすく、また妊婦には不可。
・潰瘍治癒後は維持療法が必要な場合と不要の場合がある。
【処方例】
○除菌治療以外の胃潰瘍の治療
初期治療(以下を併用)
酸分泌抑制薬いずれか
- ネキシウム錠(20mg) 1錠 分1
- タケプロンOD錠(30mg) 1錠 分1
- パリエット錠(20mg) 1錠 分1
- タケキャブ錠(20㎎) 1錠 分1
保険適応は胃潰瘍8週間、十二指腸潰瘍6週間。
以下の併用を考慮
- プロマックD錠(75mg) 2錠 分2 朝 夕食後
維持療法(いずれかを選択)
- プロテカジン錠(10mg) 1錠 分1 夕食後
- アルタットカプセル(75mg) 1カプセル 分1 夕食後
○低用量アスピリン、NSAIDsを中止できない潰瘍の再発予防
(以下のいずれかを選択)
- ネキシウム錠(10mg) 1錠 分1
- タケプロンOD錠(15mg) 1錠 分1
- パリエット錠(10mg) 1錠 分1
- タケキャブ錠(10mg) 1錠 分1
禁忌
・NSAIDs服用中に発生した潰瘍で、NSAIDs中止するのが困難なとき、PG製剤は下痢や腹痛を起こしやすく、また妊婦には不可。
禁者指導
・NSAIDsの服用は避ける。
・禁煙やストレスを避け、十分に睡眠をとる。
・規則正しい食事をし、刺激物の摂取は控える。
専門医に紹介
・吐血、下血があるとき
・出血、穿孔、狭窄が疑われる場合
・Hb 8g/dl以下の高度な貧血があるとき
・筋性防御やX線撮影の遊離ガスを認めた場合
・癌が否定できない場合
・ピロリ菌除菌後の難治性潰瘍、易再発性潰瘍