皮膚むけ とる?とらない?
高齢者はよく皮むけしますよね。
治療はワセリンや貼付剤でよいと思うのですが、その前の段階で皮膚につながっている皮をとるかとらないか?よく悩みます。
むけた皮をきれいに伸ばしてかぶせている先生もいますし、とる先生もいますよね。
◎皮膚をとらないメリット、皮膚をとるデメリット
傷の保護になる 早くよくなる? 痛みが少ない?
◎皮膚をとらないデメリット、皮膚をとるメリット
傷が深めの時には体との付着部側から皮膚が寄ってこない
くしゃくしゃ、乾燥等で戻せないことも多いあとで結局くしゃくしゃになって、汚染のもとになりやすい
はく離層の厚さや、残った皮膚のくしゃくしゃ具合、乾燥具合等にも左右されると思いますが、両者の比較の経験が多い先生方ご意見をお聞かせください。
2 つの回答
高齢者の「皮剥け」にもいろいろありますが、内容的に、寝たきりの高齢者の腕を持って引っ張ったら皮膚が剥けた、とか、車椅子とベッドの行き来のときに引っ掛けて皮膚が剥けた、などの「皮剥け」のことと推測して回答します。 このような皮剥けは「skin tear(皮膚破れ)」という皮膚が全層的に破れて生じる皮剥けであり、皮膚が脆弱化したご高齢の方にはよく生じるものです。脂肪組織まで至っていることが多く、患者さんの栄養状態や抗凝固剤内服の有無などによって難治性になることも多々あります。 一般的な創傷治療は、創部デブリードマン+洗浄+ワセリン保護/被覆材保護でOKなのですが、skin tearのときだけは例外です。もともと栄養状態の悪いご高齢の方が多いため、創部デブリードマン(剥がれた皮膚を切除)してしまいますと、なかなか周囲からの上皮化が進まず、滲出の多い難治性潰瘍になってしまいます。 skin tear治療の基本は、剥がれた皮膚を元の位置に戻して固定することです。skin tearで破れた皮膚は、ふつう破れてクルクルと内側に丸まっていますが欠損していることは少なく、まず創部をよく洗浄してから創周囲の水分を拭き取った後、丸まっている皮膚を2本の鑷子を用いてゆっくりと伸ばすとパズルのピースをはめるみたいにピッタリと元の位置に戻ることが多いです。受傷後時間が経っていたり剥けた皮膚が乾燥しているときは生食で湿らせてから行います。元の位置に戻したら、ステリストリップで皮膚を固定します。ステリストリップを貼るときのコツは、①剥けた皮膚にステリを貼ってから閉創するように引っ張りながら健常側の皮膚に貼る。ステリを剥がす必要があるときも、剥けた皮膚の側から優しく剥がす。(逆方向から剥がすと、皮膚がまた剥けます。)、②閉創するように創線に対して垂直にステリを貼付していきますが、その際、貼付するステリとステリの間隔をステリの幅半分くらい開けます。間隔を開けることで滲出液を逃し、ステリ自体が濡れて剥がれるのを防ぎます。その後、私は貼付したステリの上から1週間は剥がさない覚悟でハイドロサイトADを貼付して固定保護します。抗生剤は嫌気性菌カバーでダラシン内服1週間。1週間後にステリを剥がすときと同じように、剥けた皮膚の側からハイドロサイトADを優しく剥がします。(貼付したステリも一緒に取れてきます。) 通常はこの時点で剥がれていたskin tearの皮膚が植皮をしたように固定生着して治癒しています。若干創縁が上皮化しきっていないときは、ここから通常の創部洗浄+ワセリン保護を開始します。なお、もともと破れてしまうくらい弱い皮膚ですので、skin tearに対して無理に縫合処置を行うと破れた側の皮膚だけでなく、健常側の皮膚まで破れてしまい、創面積をさらに拡大させます。(よく外科系の先生がやってしまいます。) 上記のようなskin tearの治療が可能なのは、経験上、受傷後48時間程度が目安かと思います。しかし、受傷後創部を放置乾燥させてしまい剥がれた皮膚が黒色壊死したようなときはもっと短く、逆に、創部洗浄+ワセリン保護をしていたときは48時間を過ぎても剥がれた皮膚の色調が保たれていて治せたこともあります。一見、破れた皮膚が壊死しているように見えても、生食に浸してから2本の鑷子で引っ張ってみると意外に色調の良い皮膚が伸びてくることがよくありますので、簡単にあきらめないほうが良いかと思います。 剥がれた皮膚が一部欠損していることもありますが、その場合も残った皮膚だけでも同様の処置を行います。欠損部分の面積が大きくなければ、最後にハイドロサイトADで保護固定して1週間放置しますので、その間に欠損部分も一緒に上皮化して治ってしまっていることが多いです。皮膚欠損で痛みがあった場合でもハイドロサイトAD保護後は疼痛は消失することが多いです。ハイドロサイトAD貼付後しばらくしてから疼痛が再燃してきた場合は創感染を生じた可能性があり、ハイドロサイトADを剥がして創部洗浄、ワセリン保護に処置変更を検討する必要があります。 受傷後、時間が経って、しかもクルクルと丸まってしまった皮膚を伸ばして元の位置に戻してステリとハイドロサイトADで固定すると感染を生じそうで怖いと思うかも知れませんが、普通skin tearは屋内で生じるため元々汚染度は低く、しかも最近の創傷処置の流れて毎日創部洗浄されていることが多いためか、今までこの処置で感染を起こした覚えはありません。(元の位置に戻した皮膚が生着せずに壊死融解していたことはありますが。)しかし感染のリスクは確かにありますので、ダラシン内服/点滴は必須と考えます。(ハイドロサイトADで1週間密閉するというだけで嫌気性菌感染のリスクがあります。) 当院では、「創傷や褥瘡を見つけたら、まずは創部洗浄+ワセリン処置」が徹底されており、看護師さんも見つけ次第すぐに処置をしてくれて大変助かっているのですが、skin tearだけは例外。当然、ワセリンを塗布してしまうと、その後ステリはハイドロサイトADを貼付できなくなります。看護師向けにskin tearの勉強会をしていますが、まだ十分に浸透しておらず、看護師のワセリン処置と当方の往診でのステリ処置との競争になっています。(笑) ワセリン処置に負けてしまったときは、創部を石鹸洗浄してワセリンを落としてもらってから再挑戦するしかありません。なお、剥がれた皮膚が全欠損していたり壊死してしまっているときは、壊死部分をデブリードマン後、ふつうに洗浄+ワセリン保護/被覆材保護をしていくことになります。 ようやく質問への直接の回答ですが、skin tearのときは、剥離した皮膚が生きていそうな限り伸ばして元の位置に戻して固定する、明らかに壊死しているときは切除して通常の創傷処置を行う、ということになります。 長文、乱文をお許しください。先生の診療の一助にして頂ければ幸いです。 |
丁寧にご回答をいただきありがとうございました。 剥離した場合は元の位置に戻す。 その方針で今後処置してみます! |